旧友探訪


ピリ辛の冷気が五所川原の夜を飲み込んでいた。

縁遠かった連休という宇宙を久々にゲットできた私はふっとK二号(コラムではK二号で通っているが本名を黒川と言い、ニックネームはクロである)に会いたくなった。
思えば高専の学生だったクロはすでにティーバードでバイトに入っていた。
卒業後は名だたる大企業に進む同級生達を後目に、あろう事かここティーバードに入社してくれたのである。
ありがたい。
数年間のティーバード生活の後、自分探しの旅にとなぜかオーストラリアへと渡った。
目つきの悪いコアラと宿無しのカンガルーに可愛がられ、覚えた言葉は「CAN I HAVE A BEER」だった。
数年後にひょっこりと帰国したクロは生まれ故郷にこじゃれたプールバーを開いた。
オープン当時にいちど行ってから行ってはいない、音沙汰も無いし元気でやっているのだろうか、なんて親心がふつふつと沸いて来たのだった。


確かこの大きな通りを渡ったところの、あの小さなビルの2階がそうだと思うのだが。
名前は・・・なんだっけ・・・う~んと・・・そうだ・・・「クロロック」だった。

おお~なかなか洒落たフロアーではないか。まだ時間も早いと見えて他のお客はいないようだ。
私は中方向へと歩み出た。

カウンター内に佇む男がひとり。
このシチュエーションで男がひとりとくれば、それはどうみてもクロ以外には考えられない。
クロはお客の入って来る気配すら感じ取れなくなっているのかと意外に感じた、と同時に「もしかして老」な~んて思ってしまった。

「おいおい、な~にそんなところにつっ立ってんだよ。着いたぞ~~~~~!」

驚かしてやろうと、私は大きな声で叫んでみた。

「うわぁ~~~~お前は、お前は、誰だ~~~って、ゴリポン?ゴリポンじゃないか、なんで、なんで、お前がここにいるのだ。」
驚かすつもりが私の方がすっかりと驚かされてしまっていた。

「えへへ、びっくりしたでしょ。この為にゴリポン呼んだんですよ。ドッキリ大成功っすね。それにしてもリアクション、年のわりにオーバーっすね・・・」

相変わらずのベタな演出、実に楽しい男だ。




1時間を掛けてこの場に駆け付けてくれたゴリポンとその女房ともえちゃん、この日たまたま飲みに来てくれた美容室のオーナーである睦美さん、そしてこのにやけ面のクロとキリリと冷えたうまいビ-ルで乾杯した。

旅のそら、旧友たち、うまい酒、これ以上の贅沢はないな~と全身がざわめいた。

他のお客もぞくぞくと入店して来ては店も活気が出て来た。
せっかくなので久し振りにビリヤードでもと言う事になり私達はテーブルへと向った。

実はここ1週間、奴は店を休んでいた。
と言うのも、原因不明の高熱が続き体調が優れなかったらしい。
今夜もまだ本調子ではなかったが、ややこの雰囲気を楽しめてもいるように見えた。
酒がきいて気持ちが高ぶっているのかもしれない。このまま快方に向ってくれればと願うところだ。

それにしても良い店だ。

「ビリヤード、今度は体調のいい時にガチンコ勝負だぞ!」