ミッチ・ナウ

「これからの建築はこの工法がいいんですよ」
蝶ネクタイがいい感じのミッチはそんな事を話しだした。

社内の新事業立ち上げにより、ミッチは活気あふれる現場から営業業務へと移動になった。
地震に強いその新しい工法理論を携えて、ミッチは日夜ほうぼうと歩きまわっている。
だけどそのコートで夜の営業だけはやめた方がいい、ジンが夜な夜な白ブリーフにそのコートをはおって街に出ては職質にあっているらしいから、同じ変態扱いされてしまいかねないからね。
まあ、つまらないジンネタはそれくらいにして、新しいものは浸透するまでにどうしても時間がかかってしまうもの、地道に根気よく一歩一歩、が成功につながって行くことを信じておりますよ。
「あーまた買ってしまった」
商品の収まった紙袋を前にミッチはそういった。
「この前靴を買ってもらったばっかりだけど大丈夫なの、カミさんの方」
私は少し心配になり聞いてみた。
「いやいや、大丈夫だけど大丈夫じゃないですよ、内緒ですよ内緒」
ミッチは、口元に人差し指の一文字をかざして例のポーズをとった。
「そうなんだ、でもわかるでしょ、新しいものがあったらすぐに・・・きっとわかってるよ」
ミッチはわざとらしくにこりと笑みをつくり、そして言った。
「たぶん・・・・」
まるでいい感じ、仲のいい夫婦であります。

すでに閉店時間を迎えたらしい、ミッチは「それじゃあまた」のひと言を残し、クールにグッパイ。
と言うのも、私たちはミッチが帰るという行為で、ああもう8時か、といった具合に時間がわかるのです。
律義な男のその後ろ姿が頼もしい、生まれてくる子供のためにも頑張れ、ミッチ!
みんな応援してますよ。