尊厳と空虚 4

「おおーーこれはすごいーーまだあった!」
思わず感嘆の声が私の口から飛び出した。

市街地から海沿いへと向う途中、河口をまたぐ古くからの橋が3本ある。
その3本のまん中の橋を久し振りに渡ろうと車で走っていた私の目の前に、その光景が飛び込んで来たのです。
この道、時として通ってはいたのですが、そこにあるいつもの風景として脳が捕えている分、それ程気にも止めずに通り過ぎていたのでしょう。
今回はたまたま信号にひっかかり、そして横に目をそらしてその偉大な存在に気付いたのであります。


この建物は何十年と言う歳月をこの場所でやり過ごして来たのでしょう。私が初めてこの建物を目にしたのは、確か私がまだ高校生の頃でした。
そう、約30年以上も前になります。
その時はまだ数人の居住者がいて建物1階の左側にある引き戸の縁ではおじいちゃんと呼んでいいくらいの老人がひとり、ポツンと日向ぼっこをしていた記憶が甦ります。
ただ、建物は当時からこのような古びた印象で今とそれ程変わらない様にも思われます。
自然のグラデーションを駆使したこの色使いはまるで芸術、絵画の様ではありませんか。ガラスケースにでもしまっておきたい風景です。
どうやら今では住人の存在は見受けられません、残念です。


そのレトロ長屋の隣にある自転車屋の風景です。
多分、こちらも同年代の建物に違いありません。もちろん今では廃墟と化していますが、ほのぼのとした雰囲気だけは未だに力強く残っています。
玄関脇のポスターは「タッチ」のみなみちゃんかな。
手前にある、車輪のはずれた真紅の自転車が印象的です。

肩の力を抜いたひっそりとした存在感、なかなかたいしたものです。